お酒と料理が好き、スペインが大好き ――星野弥生さんに聞く――

――『ミニマムで学ぶスペイン語のことわざ』の刊行、おめ でとうございます。執筆のきっかけは?

 ありがとうございます。5年くらい前にミニマムのシリーズのお話を伺って、私でいいんですか?と思いましたけど、面白いかも、と興味はありました。

――ふだん、どんなお仕事をされていますか?

 フリーで翻訳・通訳をしていて、技術翻訳から映画祭の通訳まで、近年はボランティアの仕事がほとんどです。

――どんなご家庭で育ったのですか?

 父は新聞社の外信部記者でした。会社に行くとテレタイプで外国からニュースが入ったり、大リーグの記事を父が翻訳するのを見て、海の向こうの世界にあこがれ、小学校卒業時に「将来の夢」は外国留学と書きました。

――スペイン語を学ばれた動機は?

 多くの人が学ぶ英独仏以外の言語と思って、なんとなく東京外語大のスペイン語科に進学しました。最初は発音に苦労したりしましたが、スペイン革命を知り卒論を書いた頃から、自分のテーマが見えてきた気がします。

――卒業後、キューバ大使館に勤務された?

 大学闘争の頃、占拠していた守衛室にキューバ大使館から電話がかかってきて、しゃべれないのに通訳のアルバイトを数日したことがありました。卒業間近になってふと思い出し、大使館に電話し総務の人に会ったら、じゃあ、おいで、とあっさり決まりました。2年余り葉巻の臭いとコーヒーの香りの充満する職場に務め、スペイン政府の給費留学生試験に受かって、退職しました。

――夢がかなって留学されたスペインの印象は?

 当時はフランコ独裁の時代で、ヨーロッパはピレネー山脈までと言われていました。非合法活動が盛んで、大学でもヒソヒソ声で話し、政治ビラをパッと撒いて逃げるのも日常茶飯事、逮捕覚悟のデモもありました。私の学びの場は、教室ではなく、コーヒーやワインを飲みながら政治や社会を語り合うカフェテリアでした。いまのスペインは、都会は物価が高く治安もよくありませんが、田舎に行くと、ドン・キホーテの時代から変わらないような風景があり、そんなスペインが大好きです。

――ボランティアで力を入れているのは?  

 「ベンポスタ子ども共和国」にかかわることです。ベンポスタは、1956年にシルバ神父と20人の子どもたちがスペインのオレンセ近郊に作った共同体で、共同生活をしながらサーカス団として世界各地で公演を行ない、平和を訴えてきました。青池憲司監督の映画「ベンポスタ子ども共和国」(1990年公開)の翻訳や字幕を依頼されたことを契機に、93年にはサーカス団を日本に招聘する全国実行委員会の一員となって、通訳を引き受けました。映画もサーカス招聘もすべて持ち出しで、貯金をはたいて赤字を補填したのですが、このとき知り合った人々との関係が私の大切な財産となりました。その後もベンポスタの考え方や現状を伝えるために一人で「ベンポスタ通信」を作り、2000年からは毎年参加者を募って「ベンポスタと北スペインを訪ねる旅」を続けています。

――ことわざとの関わりは、いつ頃から?

 40年ほど前、北村さんが研究を始めた頃から何となくお手伝いし、海外で文献を購入したり、論文を翻訳したりして、徐々にことわざが気になる存在になりました。

――ミニマムの協力者アルベルトさんはどんな方?

 留学時代からの知人で、スペイン語やスペイン文学の先生をしていました。今回は辞典の選択から多くの用例の記述までお願いし、質問にも答えてもらいました。この協働作業を通じて生涯の友を得た気がしています。

――日常生活での趣味は?  

 趣味はお酒と料理。お酒と美味しいものを共にしながら人と付き合うのが好き、ということです。

――今後、ことわざ関連でやってみたいことは?  

 シリーズが5点揃ったので、ことわざとお国柄を比較するのも面白そうです。「パンはパン、ワインはワイン」など、例会でワインに関することわざを語りながらワインを飲むとか、そんな試みも楽しいでしょうね。

プロフィール
ほしの・やよい
スペイン語翻訳・通訳者。ことわざ学会会員。1948年東京生まれ。東京外国語大学スペイン語科卒。編著・訳書に『父ゲバラとともに、勝利の日まで』(同時代社、 2009)、『ミニマムで学ぶスペイン語のことわざ』(クレ ス出版、2019)

※初出「たとえ艸」第90号(2019年10月26日)