研究誌『ことわざ』創刊号

 伊藤高雄    

2001年11月、本会の研究誌『ことわざ』(創刊号)が発行された。誌面は、はじめに編集委員会(武田勝明、藤村美織、松村恒)による「巻頭言」を据え、以下、会員7名の個々の論考からなる。A5版、60ページの瀟洒な小雑誌であるが、念願の研究誌の刊行である。

さて、創刊号の内容であるが、既成の学問の枠ではとらえきれないことわざに対して、さまざま異なる分野の人々が集い、意見を交換し、国際的に、また学際的に交流を行ってきた本会にふさわしく、バラエティに富んだ、それでいて堅実な論考や報告でしめられている。

北村孝一「『たとへかるた』の流行と衰退」は、「いろはカルタ」に先行する「たとへかるた」について、溪斎英泉の浮世絵や柳亭種彦の合巻『傾城盛衰記』などから、その流行と衰退の実態に迫り、ひいては「いろはカルタ」の普及年代をも推定する。仲村優子「琉球列島におけることわざの『記述』をめぐって」は、琉球列島全体のことわざ集の編纂、データーベースの構築を視座に入れて、「ことわざ」研究の基盤となる「記述」について考察する。ことは、琉球のみならず、これからのことわざ採集の指標を含む。吉岡正敞「ことわざにおける無生物主語表現─英仏のことわざを中心に」は、物を擬人化して主語とする「無生物主語表現」を取り上げ、この表現の精髄が英仏語のことわざの中にひときわ鮮明に表れていることを指摘する。

鈴木雅子「袋に入った猫」は、ことわざと慣用表現の区分をめぐって、デンマークの「袋に入った猫」という慣用句の根底にことわざの理論が生きていることを述べる。キロワ・スベトラ「動物を扱った慣用句及び諺─広告との相違─」は、動物を使った慣用句・諺を日本語およびブルガリア語の例から比較し、ついで動物を使った広告との表現上の相違を述べる。匂坂桂子「ことわざ英語かるた─その教材としての可能性─」は、国際理解教育や総合学習の時間への一助としての「ことわざ英語かるた」の実践例を報告する。田丸武彦「人の噂も七十五日考」は、「七十五」を含む言説が日本の文化的、言語的風土に多方面に存在することを整理し、それがことわざの形成に深くかかわっていることを示唆している。

本誌が会員相互の研鑽によって、さらに充実していくことを願いたい。  (ことわざ研究会刊、2001年11月10日発行)