学会誌『ことわざ』第6号

鈴木雅子

第6号を迎えた学会誌『ことわざ』には5篇の論文が収められ、内容も執筆者も多彩なものとなっている。

まず、荒木優也氏による「『それぞれ草』ことわざ索引」では、近世初期の随筆『それぞれ草』について、未翻刻の目録部分も含めてことわざの索引がまとめられている。丹念な仕事で、今後資料として活用されることが期待される。

次に、作家に絞ったことわざ研究として、武田勝昭氏は「藤沢周平のことわざ」を、杉本一潤氏は「シェイクスピアの諺」を論じている。武田氏は、藤沢周平の全作品を対象に、使用頻度の高いことわざを紹介し、作品の発表年代ごと、またジャンル別にことわざの使用数と頻度も集計している。最も興味深い点は、語用論として、どのような文脈でことわざが使用されているのか、ことわざの定形に対する異形や変形、同語反復の紹介である。

杉本氏は、まずシェイクスピアのことわざに関する文献を紹介し、これらには動詞句や比喩など、いわゆることわざ的表現も多く含まれていることを指摘する。そして、シェイクスピアのことわざの使用を引用、言及、変奏に分類し、具体例を実にさまざまな作品から取り上げる。シェイクスピアはことわざを多用しているが、杉本氏によって変奏と分類された表現こそが、今となっては「シェイクスピアらしい」表現、名言なのかもしれない。

賈惠京氏、春花氏は、それぞれ母語の韓国語、モンゴル語と日本語のことわざの対照研究を行っている。賈氏の「ことわざに見られる身体語彙「かお」と「あし」に関する日韓対照研究」は、日韓の辞典から抽出したことわざを研究対象としている。身体語彙の「かお」と「あし」を対象としているもの、実際には、人間関係、人体、動・植物、衣食住器物、自然・時間・空間、形象・行為、数字と、7つの類型に分けて考察しており、身体にとどまらず、他の多くの要素との関連性についても言及されている。

春花氏は「日本とモンゴルのことわざにおける男女の意識について」、モンゴルと日本で実施したアンケート調査をもとに考察している。単にことわざの使用度や認知度を測ることを目的とした調査ではなく、ジェンダーに関する意識調査にことわざを用いるという手法が興味深い。

作家別のことわざ検証の手順にガイドラインをうちたてることができれば、賈氏の身体語彙や春花氏のジェンダーといったような特定の分野に絞ったことわざだけではなく、フィクションとはいえ、使用されている文脈を含めたマクロな意味でのことわざの比較対照研究も可能になっていくのではないだろうか。(ことわざ学会刊、2013年2月20日発行)