学会誌『ことわざ』第5号

飯田秀敏

『ことわざ』の第5号は、収録されている4篇の論文のうち3篇がことわざ資料を提示するものであり、前号までとはやや趣を異にしている。改めて言うまでもなく、実証研究においては良質の一次資料に拠らなければ有効な知見を導き出し難い。こうした地道な研究活動は今後ともことわざ研究の大前提となるものである。以下、各論文を簡単に紹介し、若干のコメントを加えたい。

荒木優也氏の「資料紹介 初期俳諧に見られることわざ」は、江戸初期の貞門俳諧集『詞林金玉集』に収められた俳諧19,519句のうちことわざを含むもの273句を拾い出し一覧にしたものである。論考の部分は簡にして要を得ており、貞門から蕉風へと俳諧が文学性を高めていく流れの中で、ことわざが俳諧から雑俳へと居場所を移していくその経緯を的確に解説し、ことわざの独立性という特性のゆえに初期俳諧がことわざ研究において重要な資料となることを明確に論じている。従来知られているものより古い初出例の発掘の報告や、ことわざの判定の手順に関する周到な配慮もなされており、極めて水準の高い論考となっている。

ザクス編「気仙郡のことわざ」は、明治38年の文部省命令に応じて岩手県が提出したと見られる調査報告書の草稿『俚諺調』に収められたことわざのうち、気仙郡で採集されたもの約1,000件を活字化し五十音順に配列したものである。ことわざの地域的特異性を分析する上でも、また、ことわざの消長を探る上でも貴重な資料になると思われる。

佐藤トゥイウェン氏の「親子関係をめぐる日本・ベトナムのことわざ」は、日越両語のことわざ辞典各数点を資料として、「孝・不孝」に関することわざをそれぞれ4件ずつ選び出し比較対照を試みたものである。氏が精力的に進めている日越比較ことわざ研究の一環をなすものである。分析結果は、日越両語のことわざが共に漢籍からの影響を強く受けていることを印象付けている。今後、漢字文化圏におけることわざという大きな枠組みの中で研究が進められることを期待したい。

鈴木雅子氏の「明治期英語諺集二種の対訳」は、明治年間に出版された英語辞書と英語検定教科書に添えられたことわざ集( 各々311件、92件を収録) を整理し、日本語訳を付したものである。これらの資料が日本における西洋起源のことわざの定着に影響を与えた可能性があると鈴木氏は推測する。外来のことわざの受容に関する研究は、使用例など受け手側の資料に依存すべきことは言うまでもないが、この種の供給側の資料の掘り起こしと積み上げも重要な作業であろう。(ことわざ学会刊、2011年12月5日発行)