第26回ことわざフォーラム

第26回を迎えたことわざフォーラムは、「ことわざと遊び」をメインテーマに、2014年11月22日(土)、法政大学市ヶ谷キャンパスで開催された。

★研究発表

 午前中は、会員による研究発表で、まず荒木優也会員が「資料紹介 昭和期いろはかるたの特殊なことわざ」と題して、珍しい資料を紹介しながら、かるたの年代特定の方法や今後の研究課題について論じた。

次に、大橋尚泰会員が「ことわざに内在する遊び的要素──フランスの絵葉書とクロモを手がかりに」と題し、自らのコレクションを素材に、遊び的要素が「もじり」と「語呂あわせ」、「ユーモラスな解釈」の3つに分類できるとした。そして、これらはことわざに内在するものではないかと問題提起された。

 最後に、鄭芝淑会員は「韓国におけることわざ研究の動向について」、韓国国会図書館の所蔵資料を統計的に分析して、紹介した。修士論文で比較的人気のある国際比較が、一般研究であまり取り上げられなくなるところに、研究上の問題点の一端があるのではないかと指摘された。

★講演とことわざサロン

 午後の最初は、ゲストに金佩華氏をお招きし、「中国のことわざ――時代と暮らしとともに」と題して講演していただいた(司会は千野明日香会員)。金氏は、中国現代史とかさなる自らの重い体験をユーモアを交えながら、淡々と語られ、静かな感動を呼んだ。

 続いて、初の試み──“ことわざサロン”の時間となり、金佩華氏のほか、午前の発表者の荒木会員、大橋会員をそれぞれ囲む形で、3つのグループに分かれ、コーヒーを飲みながら、自由に歓談した。(北村孝一)

★シンポジウム「ことわざと遊び」

 最後は、恒例のシンポジウムで、3名のパネリストとその報告のテーマは次のとおりである。千野明日香会員「中国――ことわざの周辺」、井谷泰彦氏(早稲田大学大学院、府中市生涯学習センターディレクター)「沖縄のモーアシビ」、永野恒雄会員「遊びは人を自由にする」。(司会は武田勝昭会員と鈴木雅子会員)

 千野会員は、中国の類型表現(四字成語、ことわざ、歇後語=しゃれことば、慣用句)を概観した後、子ども向けの漫画形式のことわざ本『漫画俗語三百篇』を引いて説明を加えた。千野氏の結論は、中国では、類似のジャンルの間に役割分担があり、ことわざは主として念書(=学習)の対象であって、遊びとは無縁であるという。

 井谷氏によれば、「モーアシビ」は、琉球王国時代から戦前まで、沖縄の集落で、仕事を終えた未婚の若い男女が、夜の野原(モー)や海岸に集まって催した歌舞の会で、中国の少数民族や日本古代の「歌垣」と同じ習俗であるという。村内婚を基本とする婚姻媒介機能をにない、近代の風俗改良運動や村内婚制度の崩壊などによって消滅したが、歌舞の創作や詩作、レクレーションなどの多様な文化伝承を伴う教育力を持っていた。エイサーで歌い演じられる曲の多くはそこで生まれたものという。

 永野会員は、日本人はもとから勤勉であったわけではないという。江戸時代から明治前期までの農民の最大関心事はいかにして「遊び日」を確保するかにあった(「入りぼた餅に明け団子」)。しかし、近代化にともなって勤勉を尊び、遊びや遊び日を否定的に捉えるようになる。日本人が「働かざる者、食うべからず」を口にするのは明治以降で、そこには西洋のキリスト教的な勤労観の紹介・導入があったことは間違いない、とされた。

 報告の後、フロアをまじえた質疑応答が行われた。多岐にわたる論議を紹介する紙幅がないのは残念だが、今回のシンポジウムは、ことわざと遊びとの強い社会的な関わりを浮き彫りにするものであった。(武田勝昭)