PSリストを中心に、新たなことにも挑戦したい ――鄭芝淑さんに聞く――

――ことわざ研究奨励賞の受賞、おめでとうございます。

 ありがとうございます。学会創立10周年という記念すべき年にこのような賞をいただけて、とても光栄です。

――鹿児島大学では、どんな授業を?

 4月で3年目になりますが、主に韓国語を教えています。そのほか、独・仏・中・韓・イスラムの5つの言語と文化を学ぶ「異文化理解入門」では韓国語・韓国文化を担当。また鹿大には公開講座“焼酎マイスターコース”もあり、やはり韓国語の初歩を教えています。

――日本人が韓国語を学ぶ上でのヒントは?

 日本語と韓国語の文章構造が似ていることを意識して勉強するのが一番でしょう。それと、完璧主義におちいらないように気をつけてください。

――鹿児島での生活はいかがですか?

 故郷の羅州(ナジュ)は韓国の南端に近いので、鹿児島には因縁のようなものを感じます。知り合いがなく多少心細かったのですが、名古屋などの大都市とは違い、落ち着いた人情味あふれる土地柄で、皆さんに親切にしてもらい、思ったより早く慣れました。食べ物が美味しく、下戸の私にはもったいない街で(笑)、自然にも恵まれ、住まいから桜島が一望できて、毎日元気をもらっています。「住めば都」で今は鹿児島にすっかり溶け込んでいます。

――ことわざ研究では、PSリストを提唱されていますが、このアイディアはいつ頃、どんなきっかけから?

 2002年の冬だったと思います。博士論文を日韓のことわざ比較で書くと決めたのですが、対象の選択に悩みました。いろいろな方法を試してもうまくいかず、どの辞典を選べばよいかわかりません。ある時、だったら選ぶという発想をやめて、ぜんぶを参考にして、多くの辞典に載っているものを選んでみたらどうかと考えたのが直接的なきっかけです。そして日韓の小中規模のことわざ辞典を買い集め、すべてを資料にしました。その過程でことわざの持つスペクトル的性格が明らかになってきました。日韓とも多くのことわざ辞典が出版されていたのが幸運でしたが、何よりもどのことわざを比較すべきかという根本問題にこだわったのがよかったと思います。入力と異形処理に時間がかかり、3年後にPSリストが完成。分析を加えて、2007年に博論を提出しました。

――ことわざで博論を書くのは難しいと聞きますが……

 そうですね。日本では、残念ながら博士論文のテーマにふさわしいと認められないのが実状です。適切な指導ができないとして、却下されてしまうのではないでしょうか。私の場合、名古屋大学で飯田秀敏先生の研究室に入り、先生がことわざに興味を持っておられたことが幸いでした。博士論文レベルの研究になるかどうかは分からないけれど、興味を持っていることに取り組むのが重要と認めていただきました。その後、アプローチに悩んでいたときに、どのことわざを比べるかその選択が問題だと、助言していただいたことが突破口になりました。

――これまでに影響を受けた文献は?

 ことわざ研究会編『ことわざ学入門』です。院生のときに読んで、ことわざ学を本格的にやるきっかけになりました。韓国語では、李基文編『俗談辞典』が、個々の解説だけでなく、明快な序文に感銘を受けました。

――比較以外のことわざ研究については?

 比較に一生懸命で、他の視点から研究するゆとりがなかったのですが、他の視点も同じように重要だと思います。いずれにせよ、広範かつ深い知識が必要なことを肝に銘じて、今後も勉強していきたいと思います。

――プライベートでのご趣味は?

 こちらに来て観光に目覚めました。指宿、霧島、枕崎などでいろいろな人々との出会いを楽しんでいます。また、新しいことにチャレンジしようと思って、3月の鹿児島マラソンに初挑戦し、無事完走しました。

――最後に、今後の研究について一言どうぞ。

 やはりPSリストによる比較を中心に考えていますが、新たなことにも挑戦して、将来、「比較ことわざ学入門」のような本が書けるように準備したいですね。

 

プロフィール
ちょん・じすく
鹿児島大学共通教育センター准教授。ことわざ学会理事。1976年韓国羅州生まれ。2001年来日。名古屋大学大学院博士課程満期退学。PSリストに基づいて日本と韓国のことわざを比較している。著書に『ミニマムで学ぶ韓国語のことわざ』(クレス出版、2017)など。

※初出「たとえ艸」第87号(2018年4月1日)