アフリカへの思いは小学5年生から ーー髙村美也子さんに聞くーー

——研究奨励賞の受賞、おめでとうございます。

 ありがとうございます。長年続けてきた研究がこのような受賞に繋がり、嬉しく思います。

——現在のお仕事と研究のテーマは?

 南山大学人類学研究所で国際化推進事業を担当する研究員で、タンザニア・ボンデイ社会を中心にスワヒリ農村社会を研究し、その中にことわざが入っています。

——アフリカに関心を持たれたきっかけは?

 私は岐阜県で育ち、大学に入るまでアジア人以外の外国人を見たことがありませんでした。小学5年生の時に、TVでアフリカの森に住む人たちが木の枝と葉っぱで建てた家の前で食事をしている映像を見て、同じ地球上にまったく異なった生活をしている人たちがいることに衝撃を受けました。家族はアフリカの生活は「かわいそう」と感じたようですが、私は日本の生活のほうが良いかどうか疑問に思いました。その時からアフリカへの思いが脳裏に焼き付いた気がします。

——ことわざの研究を始めたのは?

 タンザニアに初めて行った際、子どもたちの躾が行き届いていることに感動を覚えました。たとえば、客人が来ると走ってお出迎えをし、荷物を率先して部屋まで運んでくれます。食器洗いや食材の買い物もし、小学校の制服も自分で洗います。若年層は年配者を敬います。これらの躾は、無文字であるボンデイ社会が口頭で継承してきた文化が大きな役割をしているのだろうと推測し、ことわざにはその文化が反映されていると考え、着目しました。

——どんな学生時代を過ごされましたか?

 中部大学国際関係学部に進学し、懸命にアルバイトして、ヨーロッパやアフリカ、韓国に行って異文化と触れ合いました。旅のなかで、アフリカの人びととコミュニケーションできたら面白い人生になると直感しました。

——大学卒業後はどうされましたか?

 卒業2年後にはタンザニアでスワヒリ語を学ぶという目標を立て、東京で働き、現地で2年ほど学びました。帰国して中小企業に7年勤務しましたが、自分のめざすものとの違いを感じ、スワヒリ語を生かせる学問の世界に入る決意をしました。

——ことわざで修士論文を二度書かれたそうですね。

 大阪外大の大学院では、スワヒリ語のことわざを研究し、ダルエスサラームで住民に聞き取りをしましたが、都市部ではことわざに対する関心が低下し、タンザニア北東部のタンガ州の人々がことわざをよく使うことがわかりました。大阪外大では社会言語学が中心でしたが、 実地調査から人類学的な視点で進めるべきだと感じ、名古屋大学大学院に入り、修士から再度取り組みました。
名大の修士論文では、部族語のボンデイ語(タンザニア北東部タンガ州沿岸部の言語)を扱いました。フィールドワークで人々の暮らしに入り込んで語彙や文法、言語使用から研究しました。そこでボンデイ族の文化を後 世に残そうとする長老に出会い、口頭伝承について教えてもらいました。これをまとめるだけでも修論としては大きな研究成果でしたが、ことわざを頭でわかっても咀嚼して他の方に説明するとなると、また別でした。
 博士課程では、ことわざを直接調査するのではなく、人々の生活を調査することにしました。目を着けたのは、アラブやペルシアの商人が持ち込んだ、ココヤシのプランテーションです。博論は「スワヒリ農村ボンデイ社会におけるココヤシ文化」で、ことわざとココヤシ文化を切り離しましたが、これが今後のことわざの内容の研究につながると思っています。

——研究以外の趣味は?

 カフェやリサイクルショップ巡り。スワヒリ語の絵本を訳し、紙芝居にしてイベントで読み聞かせしたり…。

——最後に、今後の研究について一言どうぞ。

 ことわざと日常生活との繋がりから、やっとことわざが咀嚼できるようになってきました。ことわざは一生のテーマと考え、これからも研究を続けます。

プロフィール
たかむら・みやこ
南山大学人類学研究所研究員。ことわざ学会会員。タンザニア連合共和国スワヒリ地域のボンデイ社会における農村社会および口頭伝承を研究する。著書に「女性の笑顔が弾ける子宝祈願儀礼」『ラウンド・アバウト』(集広社、2019)

※初出「たとえ艸」第89号(2019年5月25日)