利用者の側から解明し、生活に生かす ――安藤邦男氏に聞く――

--ことわざに関心を抱かれたきっかけは?

 子供の頃、母などからよく「米をこぼすと目がつぶれる」とか「早起きは三文の徳」とかいわれましたが、はっきりした記憶はありません。高校の英語教師になっても、ことわざに特に興味はなく、英文法の例文でAll is not gold that glitters.などに接していた程度でした。
 そんな頃、運動部の顧問から「生徒にやる気がない。刺激になる英語のことわざがあったら教えてくれ」と言われました。ところが、ことわざ辞典を繰っても、なかなか出てこない。苦労して見つけたのがThe strength of the chain is in the weakest link.(くさりの強さは一番弱い輪で決まる)。これが喜ばれて、ずっと部室に張ってありました。ことわざを探すのに苦労した私は、abc順ではなく、もっと簡単に検索できる辞典があったらいいのに、と思いました。でも、その思いが実現できるのは、ずっと後のことです。

--それが『英語コトワザ教訓事典』ですね。

 犬山市の市邨短期大学に移ってから、メッセージで引ける英語ことわざ辞典を自分で創ることにしました。よく使われるものを2,000 例集めてパソコンに打ち込み、教訓やメッセージごとに分類しました。そうして教訓別に配列した『英語コトワザ教訓事典』を99年に自費出版したところ、評判がよく、完売しました。これを改訂したのが『テーマ別英語ことわざ辞典』(2008)です。
 英語を教えていると、日英の文化や国民性の違いがいやでも目につきます。この相違はことわざにも反映されているに違いないと思い、調べた結果をまとめたのが『東西ことわざもの知り百科』(2012)です。

--ところで、ご生家はどんなお家でしたか?

 三重県久居町に生まれ、父は職業軍人で騎兵隊の教官でした。家には犬のマークの蓄音機があり、昭和初期にいち早く購入したようです。父の趣味は囲碁で、新しもの好きで囲碁に熱中するのは、父ゆずりかもしれません。

--英語や英文学の道に進まれた経緯は?

 私の成長期は軍国主義の時代でした。小学2年で日中戦争、6年で太平洋戦争、中学3年からは勤労動員で小牧飛行場造成やゼロ戦の工場に駆り出されました。授業は月数回ですが、あの時代に教室で「英語をばかにしちゃいかん」といった荒川惣兵衛先生は記憶に残っています。暗い毎日でしたが、私を救ってくれたのは叔父が出征前にわが家に託していった改造社版現代日本文学全集50巻で、工場から帰ると、毎晩読みふけっていました。
 4年で終戦、軍国教育が突如民主主義教育に替わりました。しかし、軍国少年は一夜で民主主義少年にはなれません。神国日本と鬼畜米英を教えていた教師たちが豹変するのを見て、私は教師不信、人間不信に陥り、勉強を放棄。しかし、5年になると激しい受験競争で、やむなくがむしゃらに勉強し、名古屋経済専門学校を受験。合格してホッとすると再び人間不信の日々となり、3年間自堕落に過ごしました。英語だけは好きで勉強しましたが、他の科目は最下位、入社試験はすべて不合格。
 これではダメだと、心機一転、大学へ行ってもう一度勉強し直す決心をしました。経済は飽き飽きしたので好きな英語と文学を学ぼうと、名古屋大学に新設された英文科に入りました。恩師工藤好美先生に教えられ、卒論はA Study on Edgar Allan Poe through the Relation between Poetry and Scienceでした。

--昭和4年生まれと伺いましたが、お元気ですね。

 いや、持病もあり、それほどじゃありませんが、健康維持と老化防止のために、自分史や囲碁、体操などのサークルに参加しています。当面の目標は卒寿です。

--今後の研究について、一言どうぞ。  

 ことわざは「対比」をもとにした弁証法的な言説と考え、もっぱら利用者の側からことわざを解明し、日常生活に生かそうとしてきました。いわば専門家と読者の仲介です。実は、日の目を見るかどうかわかりませんが、できればもう1冊出したいと思って準備中です。

プロフィール
あんどう・くにお
名古屋市在住。1929年三重県生まれ。名古屋経済専門学校、名古屋大学文学部英文科卒業。同大学院文学研究科中退。専攻はアメリカ文学。愛知県の県立高校、市邨学園短期大学などに勤務。著書に『英語コトワザ教訓事典』(中日出版社、のちHPで公開) 、『テーマ別英語ことわざ事典』(東京堂出版) 、『東西ことわざものしり百科』(春秋社)など。

※初出「たとえ艸」第85号(2017年4月1日)